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2010年05月11日(火)

狂犬病予防注射を考えるパート3 [病気に関するお話]

今回は狂犬病予防注射も含めてワクチン全般の問題点です。

ワクチン接種は、体内に病原体を注入することによって体に抵抗力(抗体)をつける仕組みです。

もちろん、ワクチンに用いる病原体(ウイルス)は、病気を引き起こすものと同一ではありません。
もともとの病原体(ウイルス)を生きた細胞で何代も培養して、病原性が極めて弱いか、病原性が無くなったものをワクチンとして用います。これを生ワクチンと呼びます。それに対して病原体(ウイルス)を殺して(不活化といいます)、病原体(ウイルス)の構造の一部をワクチンとして使用するものを不活化ワクチンと呼びます。

一般論ですが、生ワクチンはウイルスが生きていますので、ワクチン効果が大変高く、抗体の上昇も良好であると言われています。ただし、ごくごく稀なケースですが、ワクチンウイルスが病原復帰性を持ってしまうケースがあるようです。もちろんワクチンメーカーはワクチンに使用する継代培養したワクチンウイルスが病原復帰性が無いことを確認しているにも関わらずです。

それに対して不活化ワクチンはウイルスは死んでいるので病原復帰性はあり得ませんのでかなり安全と考えられます。しかし、その反面、抵抗力をつける効果はいまいちと言われています。そのジレンマを解消するために「アジュバント」と呼ばれる免疫系の刺激を高めるものが添加されています。不活化ワクチンの場合はこのアジュバントが問題となるようです。ちなみに狂犬病ワクチンは不活化ワクチンです。


残念ながら狂犬病ワクチンも伝染病の混合ワクチンでも毎年、ごく僅かながらワクチンが原因と考えられる事故が起こっています。

重症例ではアナフィラキシーショックによる死亡、軽症例では嘔吐、顔面の腫脹などです。

 幸い私は狂犬病ワクチン・伝染病ワクチンを含めてアナフィラキシーおよび死亡には遭遇しておりません。しかし、顔面が腫れあがってしまうのは毎年何回か経験します。

大事なことは、ワンちゃんの体調と相談しながらワクチン接種をすることが重要です。

1.体調に不安がある時はけっして強引にワクチンをうたない
2.ワクチンをうつ場合は可能な限り午前中早い時間に(9:00〜10:30)に接種する。
3.飼い主さんが1日ワンちゃんの様子を見ることができる日に注射する。

 ワクチンがきっかけで体調を崩すことは絶対に無いとは言えません。体にない異物を体内に注入するわけですから、過敏反応が起こっても不思議ではありません。

 人間の場合でもワクチン接種と副反応の問題は必ずいつも出てきます。副反応に過敏になって予防接種を中止すると、そのあとワクチンを中止した世代で特定の感染症にかかりやすくなったり、いろいろワクチンを接種していないことによる問題を生じます。


しかし、ワクチン接種後に具合が悪くなるのは非常にまれなケースです。
伝染病に感染してから慌てても遅いのです。ワクチン接種そのもののリスクよりも、ワクチンを接種していなくて伝染病にかかってしまうリスクのほうがはるかに高いと思われます。狂犬病に関しては何度も言うように、清浄国を維持すること重要なのです。


かかりつけの獣医師と十分相談しながら、より安全なワクチン接種をしていきましょう。


Posted at 18時56分

2010年05月03日(月)

狂犬病予防注射を考えるパート2 [病気に関するお話]

狂犬病予防注射の話題の続きです。

少し古い資料ですが、世界での狂犬病の発生状況です。以下のアドレスにアクセスしてみてくださいhttp://nichiju.lin.gr.jp/ekigaku/keneki/kyouken.htm

狂犬病の発生国=狂犬病による死亡者がいる国ということになります。

ほとんどの地域で狂犬病による犠牲者が出ているのがお分かりいただけると思います。

狂犬病はほとんどすべての哺乳類が感染します。
犬ではウイルスの感染を受けると潜伏期、前駆期、興奮期、麻痺期に分けられます。
興奮期:痙攣が起こり死亡
麻痺期:痙攣期に生存した個体もやがて全身麻痺で死亡

ヒトではウイルスの感染を受けると、潜伏期、前駆期、急性神経症状期、昏睡期と続きます。発症した場合は100%死亡します。
繰り返しになりますが、潜伏期(症状が出てないうち)に適切な治療を受ければ、ほとんどの例で回復しますが、100%助かるわけではありません。治療を受けても死亡することもあります。
 症状が出てからあわてて医療機関に駆け込んでも、もはや手遅れであり死を待つしかありません。

 私たちが仕事や旅行で狂犬病の常在国へ訪問する場合、それなりの準備が必要です。
具体的には、
1.渡航前に狂犬病ウイルスに対する基礎免疫をつける。日本式とWHO式がありますが、日本方式では0日、30日、210日の3回、人用組織培養狂犬病ワクチンを接種します。これを狂犬病暴露前免疫といいます。
その後、現地の犬や野生動物に咬まれなければ問題ありません。

もし、現地の犬や野生動物に咬まれてしまったら狂犬病暴露後発症予防を行う必要があります。
 狂犬病感染疑いの動物に咬まれた場合、まず傷口を流水と石鹸で徹底的に洗浄します。そのあと消毒用アルコール(絶句するほどしみます)かポピドンヨード液(こっちのほうがしみません)で消毒します。ただちに現地の病院へ行き動物に咬まれたことを申告してください。
2.狂犬病暴露後発病予防(タイ赤十字法とエッセン法があります):傷口に抗狂犬病免疫グロブリンを注射します。免疫グロブリン製剤は狂犬病ウイルスと直接結合してウイルスを失活させます。同時に狂犬病ワクチンを接種します(0日)。その後3,7,14,30,90日の合計6回狂犬病ワクチンを接種します。

人間の場合、犬と比べて発症するまでの期間が長いため、咬まれてすぐ免疫グロブリンで可能な限り狂犬病ウイルスの活性をさげ、その後はワクチン接種によって被害者本人の免疫力を高め、狂犬病を発症させないというやり方です。

狂犬病常在地では加害者の動物(咬んだ動物)の対処法は以下のようになっているようです。
1.飼い主がわかっていて、動物が健康であり、狂犬病予防注射をしている場合:動物を拘束(繋留)して様子を見るだけでよい。
2.飼い主がわかっていても狂犬病予防接種をしていない場合:動物をただちに安楽死させて病理解剖し、狂犬病でないか調べる。
3.飼い主がいない場合:ただちに捕獲し安楽死、病理解剖を行う


つまり、狂犬病が存在している国では、狂犬病予防接種をしてない犬は、飼い主の有無、飼い主の好む好まざるにかかわらず、殺処分されて病理検査にまわされてしまうようです。


日本で万が一、犬の咬傷からヒトが狂犬病で死亡する事件が起こり、その犬が狂犬病注射未接種だった場合、果たして事件の当事者同士で話が済むのでしょうか?

日本の国民性を考えると、狂犬病予防接種をきちんと受けている犬ばかりでなく、犬の飼い主まで悪者扱いされるような気がします。すべての犬=狂犬病をばらまく悪い奴という風評となり、安易な飼い犬の投棄や殺処分の増加につながりはしないかと非常に危惧しています。

以上のことを考える(日本人の国民性、清浄国を保つ)と、現在の犬の狂犬病ワクチン接種の義務は必要と思います。
 繰り返しになりますが、日本国内に狂犬病が侵入してから対処していては駄目なのです。重要なのは、今現在の狂犬病清浄国を維持していくことが非常に大切なのです。


ただし、ワクチン自体が問題となるケースもあるので次回はそのあたりに触れてみます。

ちなみに、今回の情報源は
高山 直秀著 ヒトの狂犬病 忘れられた死の病 時空出版 

から引用させてもらっています。











Posted at 09時45分

2010年05月02日(日)

狂犬病予防注射を考えるパート1 [病気に関するお話]

 ここ最近、狂犬病予防注射不要論を唱える輩が出てきています。
 中には「狂犬病予防注射は獣医師の既得権益を守るためだけに延々と続けられている。狂犬病予防注射が無くなると定期収入がなくなって困る獣医師がいるので、無意味な注射をずっと続けているのだ」と公言している人(マスコミも含める)もいます。

果たして本当にそうでしょうか? 

 仮に狂犬病予防注射から得る収入が無くなったとしても、予防注射の安さだけを売り物にしたワクチンメインの薄利多売の動物病院以外の動物病院はさほど影響を受けることはありません。
 狂犬病予防注射イコール獣医師の既得権益と考えている人たちは、一体どれだけ狂犬病予防注射で儲かると思っているのでしょうか?

 私には「狂犬病予防注射はいらない!!」と言っている輩が非常に無責任に思えます。
この輩たちは、過去に日本がどのようにして狂犬病を駆逐して、いまのような狂犬病の無い清浄国にしてきたか、また、狂犬病がどんなに恐ろしい病気か理解したうえで発言しているのでしょうか?

 新型インフルエンザの件は皆様の記憶に新しい事とおもいます。一度国内に病原ウイルスが入り込むとあっという間に蔓延し、常在化してしまうことは明らかです。その後、国内から完全に病原ウイルスがなくなるのは非常に困難です。

 狂犬病もまた然りで、万が一にも国内にウイルスが入ってきた場合、再び清浄国にするには非常に困難です。身近なところでは韓国が例に挙げられます。かつては韓国は狂犬病清浄国でしたが、いったん狂犬病の侵入を許してしまったため、現在では散発的ですが狂犬病による死者が出ています。同様なことが日本で起こったとすると日本国内がパニックに陥ってしまうことは想像にかたくありません。犬=狂犬病という発想になり、愛犬家は疎ましがられるようになるでしょう。

 こないだまで、狂犬病予防注射不要論を唱えていた無責任な輩(マスコミ含む)ほど、手のひらを返したように飼い犬の殺処分を唱えるかもしれません。


  狂犬病は新型インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)なんかと違って、発症すると死亡率100%なのを御存知でしょうか?

 狂犬病ウイルスを保有した動物にかまれた場合、発症する前に治療をすればほとんどのケースで助かりますが、万が一発症してしまうと、残念ながら死を待つばかりです。
 
 数年前フィリピンから帰国した男性が立て続けに2名、狂犬病を発症して亡くなっています。この方たちは現地で犬にかまれたものの、発症前に病院で狂犬病の治療をされていなかったため、残念な結果となってしまいました。

 私はけっして皆様を恐怖に陥れるために大げさな話をするわけではありません。

 あまりにも狂犬病に対する知識や情報が偏っているので、一開業獣医師として、ひとりでも多くの方が正しい狂犬病の知識を持っていたくためのきっかけになってくれたらと思い、この話題を掲げました。

話が長くなってしまうので続きは次回にさせてもらいます。 

ちなみに、今回の情報源は
高山 直秀著 ヒトの狂犬病 忘れられた死の病 時空出版 

から引用させてもらっています。

 

Posted at 09時47分

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